■その4 -- 一時金について(2008.9.16掲載)

普通借地権を設定する際には、国内の一部の地区を除く都市部においては、権利金の授受の慣行があるといわれております。
権利金とは、「借地権を設定する場合の対価」だとか、「地代の一部前払い的な要素がある」とか、学術上は様々な議論がされております。解釈論は別にすると、従来型の普通借地権の場合には、借地借家法により借地権を一度設定したら半永久的に借地権を継続させることができるような仕組みとなっていることから、借地権を設定することは、事実上、土地所有者が借地人に対して土地の権利の一部を売却するのに等しいことになることから、地主から借地権を購入するための対価と考えてよいのではないかと思います。
権利金とは、土地所有者からみると借地権設定時の収入であり、額としては概ね借地権価格相当であるといわれております。

【1】定期借地権誕生時の議論
普通借地権とは異なり、定期借地権は期間満了により借地権が消滅することから、定期借地権を設定する際の一時金の授受については、実務者の間では、当初様々な議論がなされておりました。
大きく分けると、「敷金」(もっとも借地期間が長期になるため、月額賃料の1~2年分程度に上るのではないかという話もありました。)が妥当であるという説、「少額の権利金」の授受が適当であるという説、「敷金+少額権利金」であるという説等です。
なお、地主サイドから考えると、所得税の処理上は、地価の5割を超える権利金は「譲渡所得税」扱いとなる反面、それに満たない権利金については不動産所得扱いとなることがネックとなりました。すなわち、仮に定期借地権設定時に少額の権利金~例えば地価の2割とか3割等~を授受した場合には、不動産所得扱いとなること、そのため、まとまった権利金収入があったり、土地所有者そのものが高額所得者だったりした場合には、受領した権利金の半分近くが所得税の負担になってしまう可能性がありました。

【2】一時金としての保証金
ある程度まとまった規模の区画で定期借地事業を行なう場合には、土地所有者サイドでは事前に基盤整備が必要なことがあります。
具体的には、土地分筆や上下水道等の引き込みをしたり、規模が大きくなると開発許可を取った上で敷地内に道路をいれたりといった作業です。
仮に、権利金を取得して所得税等を支払った後に、こうした作業を行なうと、最終的には土地所有者の下に権利金が全く残らないことも考えられるわけです。
こうしたことから、ある高名な弁護士と税理士が「保証金」という概念で定期借地権分譲を行なうことに思い至り、特に一戸建て分譲を中心にこの仕組みが広く定着するようになります。保証金は、借地人から土地所有者への預託金であり、多くの契約では、「借地期間満了時に無利息で返還される」旨の特約をつけておりますので、借地期間中の運用は自由にできることとなります。土地所有者の立場からすると、受領時に課税対象にならないで自由に利用することができる資金ということで、一定のインセンティブをもたれたようです。

【3】前払い賃料方式
前述のように、権利金の性格について、「賃料の前払いとしての性格」があるという学説もありますが、仮に権利金が地代の前払いの対価として認識されていたとしても、所得税上は、権利金の地価に対する割合で、譲渡所得か不動産所得かに分類されてしまうこととなっておりました。
ところで、この「賃料の前払いとしての一時金」について、契約上一定の取り決めをしている場合に支払われる一時金は、契約で取り決めた期間に均等に所得として計上できるような取り扱いが平成16年に認められました。
具体的に申し上げると、仮に5000万円の一時金を前払い賃料として預託した場合で、この前払い賃料が50年分の賃料の一部の前払いとした場合には、毎年100万円が(5000万円÷50年=100万円/年)不動産所得として形状することになります。また、前払い賃料以外に、毎月払い賃料を設定しても結構ですし、また、仮に50年の定期借地権を設定する場合でも、前払い賃料そのものは当初20年分とか30年分等とすることもできます。
なお、このスキームを利用する場合は、
a) 契約上、受領した一時金を「前払い賃料である」旨の明示を行なう。
b) 前払い賃料を契約期間中又は契約期間のうちの最初の一定期間について賃料の一部もしくは全部に均等に充当する旨を契約上定める。
c) 契約書を契約期間にわたって保管する。
等の点に留意する必要があります。

【4】一時金をどのように設定すべきか?
定期借地権事業を行なう場合に、保証金方式、権利金方式、賃料前払い方式等のいずれの手法をとるべきか、また、額をどの程度に設定すべきかについては、特に法律等で定めがあるわけではありません。
土地所有者の状況や、想定されるユーザー像を鑑みて、事業者が土地所有者と協議をした上で決定してゆくことになります。
例えば、マンションが建築できる立地で、権利金も地価の5割以上で設定できるような場合には、定期借地権を利用した等価交換マンション(具体的なイメージは後述)を計画することもできますし、同じ仕組みは保証金や前払い賃料でも行なうことができます。
また、一時金で基盤整備費用を捻出するような場合には保証金方式を選択される可能性が高いかもしれません。
次に、一時金の金額の設定ですが、これも分譲可能な額で考える必要があるでしょう。一例を述べます。

例)40坪で3000万円の建物を建築する場合。
a)地価が一億円の土地の場合
  所有権価格(A) 権利金割合(B)
地価に対する割合 100% 60% 40% 20%
土地支出額 10000 6000 4000 2000
建物価格 3000 3000 3000 3000
合計価格 13000 9000 7000 5000
B/A   69% 54% 38%

この場合は、別に支払う地代を考えると、権利金で50%程度の設定をしても、地価に対する割合は60%程度ですから、ユーザーを見つけることができる可能性は高いと考えられます。

b)地価が2000万円の土地の場合
  所有権価格(A) 権利金割合(B)
地価に対する割合 100% 60% 40% 20%
土地支出額 2000 1200 800 400
建物価格 3000 3000 3000 3000
合計価格 5000 4200 3800 3400
B/A   84% 76% 68%

地価が安い土地の場合は、相対的に建物の占める割合が高くなるため、一時金の率を20%で設定してもまだ割高感があります。このケースでは、一時金は地価の10%以下の設定でないと厳しいでしょう。

【5】国土交通省の調査データより
本文書執筆時点では、平成19年の調査結果がでておりませんので、平成18年の調査結果を元に説明をいたします。

a)一時金(一戸建て定借)の種類(全国)
合 計 保証金 権利金 前払賃料 併 用 一時金無
100.0 93.9% 2.5% 0.4% 3.0% 0.2%

このように、一戸建て定借については、現状でも「保証金方式」を採用するケースがほとんどです。なお、一時金無のケースも全国で7例ほど出ております。
詳細は不明ですが、地価が低い等の事由によるものと思われます。

b)保証金の地価に対する割合
全 体 18.2%
首都圏 20.3%
中部圏 14.1%
近畿圏 19.2%
その他 17.1%

* 首都圏、中部圏、近畿圏について見てみると、地代と反対の結果になっていることがわかります。前述のように、地価が高い地区の方が一時金率が高い傾向も、見受けられます。

尚、詳細のデータを見てみると、首都圏2団地、中部圏で1団地、近畿圏で2団地が地価の50%以上の保証金を設定しているほか、首都圏で4団地、近畿圏で5団地が地価の40~50%という高額保証金の設定をしております。
一方で、地価の10%未満の団地も、首都圏で6.4%、中部圏で18.6%、近畿圏で11.0%となっております。
前述の事例研究でも示したとおり、地価の水準等によっても設定可能な範囲は大きく異なることが理解できると思われます。